ISO/TC249とは
1. 概要
ISO/TC249は、中国の国家標準局(SAC)の申請により2009年に国際標準化機構(ISO)内に作られた専門委員会であり、東アジア地域の伝統医療(中医学・韓医学・漢方医学)分野において、国際的な流通促進を目的として生薬や製剤、鍼灸機器(鍼、モグサなど)、および伝統医学で用いる診断機器など及びそれに関連する医療情報に関する国際規格を定める場である(→表1 ISO/TC249の歴史)。
ISO/TC249には2011年の第2回全体会議で設置された5つの分科会Working Group (WG) があり、そのうちWG1からWG4まではモノの規格化が対象となっている。一方、医療情報を扱うWG5では、中医学のみの図式に則った提案が多く出され、結果次第では中医学の考え方を中心にした言葉の定義や分類が国際標準となって漢方医療の実践に大きな影響を与える恐れがある。
2. ISO/TC249の構造
ISO/TC 249では2010年の発足以降、2017年までに8回の全体会議を開催し、上記5WG以外に、現在ではTC249とリエゾン関係にある、医療情報を扱うISO/TC215との共同WG (JWG1)、さらに電気を用いた医療機器の標準化を所掌範囲とするIEC/SC62Dとの共同WG(JWG6)において伝統医学関連の規格策定が進められている。検討される規格案は天然薬物、製剤、医療機器、医療情報に渉る。ISO/TC249の構図は、モノと医療情報の国際規格策定を通じて東アジアの伝統医学を中医学 (TCM: Traditional Chinese Medicine) とし、中医学を経済価値のある知的財産として世界に拡大したい中国と、自国の伝統医学への影響阻止を図りたい韓国・日本、および中国製品による健康被害を防ぐために標準策定に対して積極的なその他の国といった構造となっている。
3. 日本東洋医学サミット会議(JLOM: The Japan Liaison of Oriental Medicine)の成り立ちと日本の対応
ISO/TC249の日本での伝統医学の標準化は2005年にWHOの伝統医学用語の標準化プロジェクトヘの協力体制を整備するために設立されたアカデミアの集合体である日本東洋医学サミット会議(JLOM: The Japan Liaison of Oriental Medicine)が中心となり担当している。そのほかに業界企業・団体や行政よりの関係者も加わっている。JLOM:設立時は4つの学会(日本生薬学会、日本東洋医学会、和漢医薬学会、全日本鍼灸学会)と2つのWHO研究協力センター(北里大学東洋医学総合研究所、富山大学和漢診療学) から構成されていた。現在ではさらに、日本歯科東洋医学会、日本伝統鍼灸学会、東洋療法学校協会、日本鍼灸師会の4団体が加わっている。 さて、ISOでの提案の多くは日本の様に現代医学との統合医療とした医療体系での提案ではなく、伝統医学と西洋医学が独立した医療システムを取る国から提起されており、科学的根拠を欠く規格案も多い。一方、日本は現代医学を基礎とし、伝統医学との密接な連携のもとに患者に最良の治療を提供する日本型統合医療を展開しており、国民に対しても科学的根拠に基づく規格、標準で伝統医学(漢方・鍼灸)を提供することが求められている。したがって前者のような国から提案される規格が議論なく合意され国際規格が成立すると、国内規格との衝突や齟齬を来たすのみならず、西洋医学を基礎に置く日本の伝統医学実践に影響を及ぼし、ひいては国民に健康被害をもたらす可能性がある。そのため、日本はTC249においては科学的根拠をもって規格策定を主導する必要がある。また、日本漢方は古代中国医学から分離し、中医学や韓医学とは同根ではあるが、全くと言ってよいほどの別の医療体系であるため、日本漢方と中医学や韓医学との重なりと差異を明確にする研究も必要であり、さらにそれを英語で発信できるようにすることが重要である。
4. TC215とJLOMとの関わり
ISOには医療に関係する専門委員会(TC)が多数設置されているが、TC215はその中でHealth Informatics(健康{医療}情報)に関する規格を作成している委員会である(1998年設立)。 幹事国は米国(ANSI)、参加国は38ヶ国です(2017年10月)。7WG、2つのJWGから構成されており、電子カルテや医療機器の測定データの流通に必要な規格、 薬物の同定に必要な情報規格などがこのTCで策定されている。
TC249は2009年秋にISOで設置たが、中国はそれ以前の2008年頃、TC215において自国の国内規格(GB)を国際規格にすべく提案を行っていた。 これらはすぐに規格化されることはなかったが、これを契機にそれまで検討されてこなかった伝統医学の情報規格を議論する場が必要となり、 WG3の傘下にTraditional Medicine Task Force(TMTF)が結成された。TMTFでは、古代中国医学に由来する医学だけではなく、インド医学やユナニ医学など、 幅広い伝統医学の情報規格を扱う事が可能だ。日本もこのTMTFにおいて、中医学(TCM)や漢方といった医学領域(medical domain)に縛られず、 高位レベルから概念範疇を規定する情報規格を提案した。すなわち、?穴(Acupuncture point)の表現に必要な情報規格としてCategorial structure for representation of acupuncture Part1: Acupuncture pointや伝統医学の薬物治療で用いられる植物薬の表現に必要な情報規格としてTS 18062 Categorial structure for representation of herbal medicaments in terminological systems を提案した(いずれも2016年冬にISOより出版)。
TC249は2011年の第2回総会(オランダ会議)で、5つのWGを設置し、WG5はTerminology, Informaticsを扱うことになった。 ISOでは類似の内容の規格が複数のTCで検討される場合、Joint Working Group (JWG)を結成するルールとなっているため、2012年にTC215-TC249間でJWGが結成された。 つまり古代中国医学に由来する伝統医学の情報規格は、TC249/WG5および、TC249-TC215間に作られたJWGで検討されることになった。 一方、伝統医学一般の情報規格を扱ってきたTMTFは2016年のリレハンメル会議でWG3から独立し、Working Groupに昇格した(名称はTF2)。
5.ワーキンググループ
WG 1: Quality and safety of raw materials and traditional processing(原材料の品質と安全性および伝統的加工法) Scope:天然薬物の安全性
WG 2: Quality and safety of manufactured TCM products (TCM工業製品の品質と安全性) Scope:TCM製品の安全性と品質
WG 3: Quality and safety of acupuncture needles (鍼灸鍼の品質と安全性) Scope:鍼灸鍼の品質および治療や治療効果を除く鍼の安全な使用に関する標準化
WG 4: Quality and safety of medical devices other than acupuncture needles (鍼灸鍼以外の医療機器類の品質と安全性) Scope:鍼以外の医療機器の品質と治療や治療効果を除くこれらの医療機器の安全な使用
WG 5:Terminology and Informatics 用語および情報科学 Scope:用語と情報(terminology and informatics)の標準化
JWG 1: Joint ISO/TC 249 WG5- ISO/TC 215 WG: Informatics (情報科学)
JWG 6: Joint ISO/TC 249 WG3/4- IEC/SC 62D WG: Electromedical equipment (電子医療機器)